長期修繕計画とは、マンションなどの建物で、これから30年ほどの間に必要になる修繕工事の内容・時期・おおよその費用を見込み、そのために毎月いくら積み立てるか(修繕積立金)を決めるための計画です。国土交通省の「長期修繕計画作成ガイドライン」(令和6年6月改定)は、計画期間を30年以上で、かつ大規模修繕工事が2回含まれる期間以上とし、5年程度ごとに建物の状態を確かめて見直すことを求めています。
計画は、作った時点の見込みで、工事の時期や費用を決めてしまうものではありません。だからこそ見直しが要ります。この記事では、計画に書くこと、修繕周期の目安、作り方と見直しの手順、令和6年の改定で変わったこと、管理計画認定の基準、そして雪と寒さのある北海道の建物で計画に入れておきたいことを順に説明します。費用の金額そのものは『大規模修繕の費用 — 1戸あたりの目安と内訳、高くなっている理由』にまとめています。
長期修繕計画とは — 何のために作るか
- 将来の工事をはっきりさせる — 見込まれる修繕工事と改良工事の内容、おおよその時期、概算の費用を明らかにする
- 積立金の根拠にする — 計画修繕工事のために積み立てる修繕積立金の額の根拠を明らかにする
- 前もって合意しておく — 修繕と改良の長期の計画を区分所有者のあいだで先に合意し、工事を円滑に進める
上は、ガイドラインが挙げる長期修繕計画の3つの目的です。修繕工事の費用は多額で、工事のときに一度に集めようとすると、払えない人が出て必要な工事ができなくなるおそれがあります。それを避けるために、先に計画を立てて毎月少しずつ積み立てておく、というのが長期修繕計画の考え方です。
ガイドラインが主な対象にしているのは、住宅だけの分譲マンション(単棟型)ですが、団地型などでも内容を足して使えるとしています。また、管理規約に、長期修繕計画を作ること・変えることを管理組合の業務とし、総会で決める事項として定めておくことを求めています。
長期修繕計画に書くこと — 5つの中身と修繕積立金
- 計画期間 — 何年先までを見込むか
- 推定修繕工事項目 — 屋上防水、外壁塗装、給排水管、エレベーターなど、直す部位と工事の種類
- 修繕周期 — それぞれの工事を何年ごとに行うか
- 推定修繕工事費 — 数量に単価を掛けた概算の費用
- 収支計画 — 工事費の累計を、積立金などの累計が下回らないように組む
- 修繕積立金の額 — 上の計画から、月あたり・1戸あたりの額を出す
ガイドラインは、長期修繕計画を、計画期間、推定修繕工事項目、修繕周期、推定修繕工事費、収支計画の5つを含めて作り、それにもとづいて修繕積立金の額を出す、としています。計画の書類は、建物と設備の概要、建物の状態を確かめた結果の要点、計画の考え方、計画の内容、修繕積立金の額の設定、という構成が基本です。
国は、このための「長期修繕計画標準様式」と記載例を公開しています。分譲会社が作った計画や、専門家に頼んで見直した計画を、この様式と見比べて項目の抜けがないか確かめることもできます。

計画期間は30年以上、大規模修繕が2回入る長さに
計画期間は、30年以上で、かつ大規模修繕工事が2回含まれる期間以上とします。ガイドラインのコメントは、新築のときは経年30年程度で見込まれるエレベーターの取替えなどを含めた期間以上とし、外壁の塗装や屋上の防水などを行う大規模修繕の周期は一般的に12〜15年程度なので、見直しのときはそれが2回含まれる期間以上にする、と説明しています。
注意したいのは、30年の計画でも入りきらない工事があることです。同じコメントは、窓のサッシなどの建具の取替えや給排水管の取替えは、修繕周期が計画期間より長く、計画に入っていないことがあるので、見直しのときに注意するよう書いています。改定の新旧対照表に載っているコメントでも、一般的に経年30年から40年に高額な工事が見込まれるとしています。築年数が進んだ建物ほど、計画の終わりの方に大きな工事が集まってきます。
修繕周期の目安 — 国の記載例(建物・設備)
- 屋上防水(露出) — 補修・修繕(下地を整えてトップコートを塗る)12〜15年、撤去・新設24〜30年
- 屋上防水(保護) — 補修・修繕(伸縮目地の打ち替えなど)12〜15年、撤去・新設24〜30年
- 外壁塗装 — 塗り替え12〜15年、古い塗膜を除いての塗装24〜30年
- シーリング — 打ち替え12〜15年
- 鉄部塗装(雨の当たる所) — 5〜7年
- 窓サッシ・玄関ドアなどの建具 — 点検・調整12〜15年、取替え34〜38年
- 共用の給水管・排水管 — 更生19〜23年、取替え30〜40年
- 給水ポンプ・排水ポンプ — 補修5〜8年、取替え14〜18年
- エレベーター — 補修12〜15年、取替え(制御のリニューアルなど)26〜30年
- 機械式駐車場 — 補修5年、取替え18〜22年
- 自動火災報知設備・インターホン — 取替え18〜22年・15〜20年
上は、ガイドラインの別添にある長期修繕計画標準様式の記載例(様式第3-2号)に、参考として示されている修繕周期です。ガイドライン自身が、時期はおおよその目安で、立地条件などで違うことがあるとしています。周期は建物と設備の傷み具合を確かめた結果で決め、足場を組む工事はまとめると仮設の費用を抑えられる一方、まとめすぎると積立金が一時的に足りなくなることがある、とも書いています。
外まわりの工事をまとめて行う大規模修繕の流れは『大規模修繕の流れと周期 — 何年ごとに、着工前に何を決めるか』、屋上防水の工法の違いは『屋上防水の種類と耐用年数 — 改修工法(かぶせ・撤去)の選び方』、鉄部は『鉄部塗装の時期と錆止めの手順 — 塗り替えが遅れると何が変わるか』で説明しています。
作り方と見直しの手順 — 理事会から総会の決議まで
- 1. 体制を整える — 理事会で話し合い、必要なら専門委員会を置く
- 2. 専門家に頼む — 頼む業務の中身を「長期修繕計画作成業務発注仕様書」にまとめて依頼する。頼む先は、管理会社や建築士事務所など
- 3. 建物の状態を確かめる — 設計図書と修繕の履歴を集め、現地で傷み具合を見る。必要なら区分所有者にアンケートを取る
- 4. 計画と積立金の案を作る — 推定修繕工事項目・周期・費用を見直し、収支と積立金の額を組み直す
- 5. 説明会を開く — 総会の前に、内容を区分所有者に説明する
- 6. 総会で決議し、配る — 議事録とあわせて計画を区分所有者に配り、求めがあれば見られるように保管する
上は、ガイドラインが示す既存マンションの手順です。新築のマンションでは、分譲会社が示した計画の案と積立金の額を、引き渡しのときの書面の合意か、管理組合を作る最初の総会で決めることがあります。
見直しは、それだけで行う場合と、大規模修繕工事の直前か直後に行う場合があります。ガイドラインは、見直しにはおおむね1〜2年かかるので、見直しも計画的に進めるよう求めています。設計図書や修繕の記録、点検の報告書は、紛失や損傷を防ぐために電子ファイルでも保管することが望ましい、としています。

見直しは5年程度ごと — 何が変わるから見直すのか
- 建物と設備の傷み具合 — 予想より早い・遅い
- 社会の環境と暮らし方の変化 — 求められる設備や性能が変わる
- 新しい材料と工法 — それによって修繕周期や単価が変わる
- お金の条件 — 積立金の運用益、借入金の金利、物価、工事費、消費税率の変動
上は、ガイドラインが長期修繕計画に含まれる不確定な事項として挙げる4つです。そのため、5年程度ごとに建物の状態を確かめて見直し、あわせて修繕積立金の額も見直します。ガイドラインは、管理規約に5年程度ごとの見直しの規定を置くことも望ましいとしています。
国土交通省が令和5年度に行ったマンションの管理の実態の集計では、長期修繕計画を作っている管理組合は88.4%、計画期間25年以上の計画にもとづいて修繕積立金を決めているのは59.8%でした。計画があっても、古いまま見直されていなければ、いまの工事費や建物の状態とずれていきます。
修繕積立金の決め方 — 均等積立が基本、段階増額は上げ幅に目安
- 均等積立方式 — 計画期間中の積立額が同じになるように決める。ガイドラインはこれを基本としている
- 段階増額積立方式 — 最初の積立額を抑え、段階的に上げていく
- 段階増額の上げ幅の目安(令和6年の改定で追加) — 均等にした場合の月額を基準額として、計画の最初の額は基準額の0.6倍以上、最後の額は1.1倍以内
- 足りないときの対応 — 大規模修繕の年に積立金の累計が工事費の累計を一時的に下回るなら、一時金や借入れなどで対応する
修繕積立金の額は、計画期間の推定修繕工事費の累計を計画期間の月数で割り、各住戸の負担の割合を掛けて出します。ガイドラインは、均等積立方式でも、5年程度ごとの見直しで工事費の累計が増えれば必要な額は増える、段階増額積立方式なら、最初に見込んだ上げ幅よりさらに増えるので特に注意が要る、としています。
段階増額の上げ幅の目安は、早めに引き上げを終えて均等積立方式に近づけるためのもので、工事費の高騰などをふまえて、いまの積立金を大きく引き上げることを制限するものではない、と書かれています。
専有面積1㎡・1か月あたりの積立金の目安の額と、足りないときの一時金・借入れの考え方は、『大規模修繕の費用 — 1戸あたりの目安と内訳、高くなっている理由』で説明しています。
令和6年(2024年)6月の改定で変わったこと
- 段階増額積立方式の上げ幅の目安 — 最初の額は基準額の0.6倍以上、最後の額は1.1倍以内(上の節)
- 工事費の高騰への備え — 均等積立方式でも、工事費の高騰などで必要な積立金が増えることがあるので、適宜見直して必要なら引き上げる、と書き足された
- 言葉の整理 — 建物や設備の性能を新築時より上げる工事を「改良工事」と呼ぶようにそろえた(それまでは「改修工事」)。修繕と改良を合わせたものが「改修」
上は、国土交通省が公開している改定の新旧対照表(令和6年6月7日)で、改定前の文と見比べて確かめたものです。同じ月に「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」も改定されています。
ガイドラインのコメントは、改定の前から、築年数の古いマンションには省エネ性能が低い水準のものが多いとして、大規模修繕の機会に外断熱や窓の断熱などの改良工事を行うことは、脱炭素だけでなく、各区分所有者の光熱費の負担を下げる点からも意義があるとしています。冬の長い北海道では、とくに考えておきたい点です。

管理計画認定の基準 — 長期修繕計画で見られること
- 長期修繕計画の内容と、それにもとづいて出した修繕積立金の額が、総会で決議されている
- 長期修繕計画が7年以内に作成または見直しされている
- 計画期間が30年以上で、残りの期間に大規模修繕工事が2回以上含まれている
- 将来の一時金の徴収を予定していない
- 計画期間全体の積立金の総額から出した、積立金の平均額が著しく低くない
- 計画期間の最後の年に、借入金の残高がない
上は、国土交通省が示している、マンションの管理計画認定の基準のうち長期修繕計画に関わるものです(令和5年度のマンションの管理の実態の集計の資料に載っている一覧から)。管理組合が申請して認定を受ける仕組みで、札幌市内のマンションは札幌市が認定します。札幌市は令和5年5月1日から申請を受け付けていて、申請の前に、公益財団法人マンション管理センターの「管理計画手続支援サービス」で事前の確認を受ける必要があります(札幌市のページ、2026年6月15日更新)。
認定を目指すかどうかに関わらず、上の基準は、計画が古くなっていないか、積立金に無理がないかを確かめる物差しとして使えます。
北海道の建物で、計画に入れておきたいこと
- 凍害 — しみ込んだ水が凍ったり融けたりして、外壁やコンクリートの表面がはがれる。外壁・ベランダ・外階段の補修の範囲と時期に関わる
- 屋上・無落雪屋根の防水と排水口 — 平らな屋根は雪どけ水が溜まりやすく、すがもりや排水口の凍結が起きる。防水の改修と排水口(ドレン)の取替えを項目に
- 外壁タイル — 定期報告の対象の建物では、竣工や外壁改修から10年を超えると全面打診などで確かめることになっている。打診と浮きの補修を周期に合わせて
- 冬は外まわりの工事ができない — 国の仕様書でも、雪が予想されるときや気温が著しく低いときは防水の施工を行わない。工事の年だけでなく、季節まで計画に
- 融雪の設備 — ロードヒーティングや融雪槽などがあれば、推定修繕工事項目に足す。ガイドラインは、建物の実態に合わせて項目を足して使うとしている
- 断熱の改良工事 — 外断熱や窓の断熱は、大規模修繕と合わせると足場を一度で済ませられる
国の修繕積立金のガイドラインは、寒冷地では劣化の進み方や必要な修繕の内容が変わり、工事費に影響する場合があるとしています。長期修繕計画の修繕周期は全国向けの目安なので、北海道の建物では、凍害やすがもりの起きやすい所を、実際の傷み具合を見て前倒しすることも考えます。凍害は『凍害とは?外壁・コンクリートの症状と対策 — 北海道の建物が傷む理由』、平らな屋根の防水と雨漏りは『陸屋根(ろくやね)とは?防水の種類と雨漏りの原因・点検・改修 — 北海道の無落雪屋根も』、外壁タイルは『外壁タイルの浮きと全面打診 — 定期報告で10年ごとに求められること』で説明しています。
札幌市には、既存の集合住宅の外断熱改修への補助金と、省エネ改修のコンサルタントを無料で派遣する事業があります。コンサルタントの派遣は、分譲の集合住宅では、長期修繕計画が作られていることと、外壁と屋上防水の工事を含む大規模修繕がおおむね5年以内に予定されていることが条件に入っています(札幌市のページ、2026年10月26日更新。令和8年度の補助金の受付は終了)。内容は年度ごとに変わるので、計画を見直すときに市のページで確かめてください。
ビルや賃貸の建物の持ち主も、同じ考え方で
ガイドラインはマンションの管理組合向けですが、計画期間を長くとる、部位ごとの周期で工事を並べる、5年程度ごとに建物の状態を見て直す、という考え方は、事務所ビルや店舗ビル、賃貸マンションの持ち主にもそのまま使えます。違うのは、決めるのが総会ではなく持ち主であることと、積立金ではなく持ち主の資金計画で備えることです。
テナントや入居者がいる建物では、屋上防水や外壁の工事の時期が、営業や暮らしに関わります。工事の進め方は『防水工事の期間・におい・音 — 営業中の店舗やテナントビルで進める方法』で説明しています。

相談先と、計画を見比べる道具
- 札幌市マンションアドバイザー派遣制度 — 札幌市内の分譲マンションの管理組合に、マンション管理士を無料で派遣。長期修繕計画の作成と見直しも相談できる。1管理組合あたり通算5回まで、1回おおむね2時間。令和8年度の受付は2026年6月1日〜2027年1月29日(予算に達したら終了)。事務局は一般社団法人北海道マンション管理士会(電話 011-551-0110、10時〜15時、日曜・祝日を除く)
- 国の標準様式と記載例 — 国土交通省の「長期修繕計画標準様式」。いまの計画と項目・周期を見比べる
- 概略の計画を作るサービス — ガイドラインは、公益財団法人マンション管理センターの「長期修繕計画作成・修繕積立金算出サービス」や、独立行政法人住宅金融支援機構の「マンションライフサイクルシミュレーション〜長期修繕ナビ〜」で作った概略の計画と、いまの計画を比べることを勧めている
札幌市のアドバイザー派遣は、劣化の診断や、業者の紹介、見積書の比べ方の相談は対象外です(札幌市のページ、2026年6月1日更新)。建物の傷み具合を確かめる部分は、施工会社や設計事務所などに頼むことになります。
相談する前にそろえておくこと
- いまの長期修繕計画と、最後に見直した年
- 設計図書(竣工図)と、これまでの修繕工事の記録
- 修繕積立金の残高と、毎月の積立額
- 気になる所の写真(屋上、外壁、ベランダ、鉄部、排水口)
- 雨漏りや漏水の記録(いつ、どこで、どんな天気のときか)
合同会社LIT(札幌市)では、屋上・ベランダの防水、外壁の補修、鉄部の防錆などの保全工事と、雨漏り・漏水の修理を承っています。計画の見直しや大規模修繕の前に、屋上や外壁の傷みを現地で確かめ、工法と範囲を書いたお見積りをお出しできます。現地確認・お見積りは無料です。
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