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公開 保全工事

外壁タイルの浮きと全面打診 — 定期報告で10年ごとに求められること

外壁タイルの全面打診とは、テストハンマーという小さな金づちでタイルを軽くたたき、音の違いで浮き(タイルや下地が壁から離れている状態)を見つけることを、落ちると危ない範囲の壁全体で行うことです。建築基準法第12条の定期報告の対象の建物では、竣工、外壁の改修、または前回の全面打診から10年を超えて最初の定期報告のときに、原則としてこれを行うことが国土交通省の告示で決められています。

ふだんの定期報告では、手の届く範囲の打診と目視で確かめ、異常があれば全面打診に進みます。打診と同じ程度以上の精度があれば、ドローンなどを使った赤外線の方法も使えます。以下、札幌市の案内をもとに説明します。

建築基準法12条の定期報告とは — 誰が、何を、どこに報告するか

定期報告は、多くの人が使う建物の持ち主(持ち主と管理者が違う場合は管理者)が、資格を持つ人に建物の状態を定期的に点検させ、結果を特定行政庁(建築の確認などを行う自治体。札幌市内なら札幌市)に報告する制度です(建築基準法第12条)。

報告の間隔は、国の省令で「おおむね6か月から3年まで」の間で特定行政庁が決めます。国土交通省は、外壁のタイルなどについて、この定期報告ごとの手の届く範囲の打診に加え、おおむね10年に一度、落下で歩行者などに危害を加えるおそれのある部分を全面的に打診することになっていると説明しています。報告をしなかったり、うその報告をしたりすると、罰則(罰金)の対象になります(同法第101条)。

定期報告の対象になる建物 — 札幌市の例

  • 共同住宅(マンションなど) — 地上5階建て以上で、共同住宅の部分の床面積の合計が1,000㎡以上のもの。報告は3年ごと(サービス付き高齢者向け住宅などは別の条件)
  • 事務所など — 地上5階建て以上で、その用途の床面積の合計が1,500㎡以上のもの。報告は3年ごと
  • 物販店舗・百貨店・飲食店など — 階や床面積の条件に当たるもの。報告は毎年
  • 病院・ホテル・学校・劇場・集会場など — 用途ごとの階や床面積の条件に当たるもの。報告は3年ごと

上は、札幌市の令和8年度(2026年度)の案内「建築基準法に基づく定期報告について」の表から主なものを抜き出したものです。共同住宅は区によって報告の年度が分かれていて、令和8年度は中央区・西区・手稲区、令和9年度は厚別区・豊平区・清田区・南区、令和10年度は北区・東区・白石区です。

対象は特定行政庁が指定する建物も含むため、自治体ごとに違います。国土交通省のマンション改修マニュアルも、共同住宅を対象にしていない自治体があると注意を促しています。札幌市以外は、その地域の案内で確かめてください。

小さな打診の道具を外壁のタイルに当てる手元

全面打診はいつ必要か — 竣工・外壁改修から10年を超えたら

  • 1. 外壁にタイル・石貼り・モルタルが使われているか(使われていなければ、目視で確かめる)
  • 2. 竣工、外壁改修、または前回の全面打診から10年を超えているか
  • 3. 3年以内に、外壁改修か全面打診を行うことが確実か
  • 4. 落下物を防ぐネットやバリケードなど、歩行者の安全を確保する対策をしているか
  • 5. 3にも4にも当たらなければ、落下で歩行者に危害を加えるおそれのある部分を全面打診する

札幌市が外壁のタイル等について出している資料(令和8年2月改定)の流れ図を、言葉に直すと上のようになります。3の「確実」とは、維持保全計画で外壁改修や全面打診の時期がはっきり決まっていて、これまでも計画どおりに行ってきた場合などをいう、と札幌市は説明しています。4のネットやバリケードは応急の対策なので、早めに全面打診か外壁改修を行うことが望ましいともしています。

3年以内に行った全面打診の結果があれば、それを使えます(国土交通省の告示)。反対に、10年を待たずに全面打診が要ることもあります。ふだんの定期報告で、目視や手の届く範囲の打診で異常が見つかった場合です。

全面打診の範囲 — 壁の高さの半分の距離に、人の通る場所があるか

全面打診をするのは外壁のすべてではなく、落下により歩行者などに危害を加えるおそれのある部分です。国の技術的助言では、壁面の前で、壁の高さのおよそ2分の1の水平距離の範囲に、公道や、不特定または多数の人が通る私道・構内の通路・広場がある部分としています。高さ30mの壁なら、前のおよそ15mの範囲が目安です。

ただし、壁のすぐ下に丈夫な庇や屋根があって落ちたタイルを受け止められる部分や、植え込みなどで落ちる範囲が完全にさえぎられている部分は除かれます。

対象になる外壁と、扱いが変わる外壁

  • 対象になる外壁 — コンクリートやPC板、ALC板の下地に、モルタルや接着剤で張ったタイルや石。コンクリートと一緒に打ち込んだタイルや石。モルタル塗りの壁(薄塗りを除く)
  • 乾式工法のタイル・石 — 金物などで留める工法。目視などで確かめる。要件を満たした金物固定のタイル先付けPC板も、同じ扱いにできる場合がある
  • 有機系接着剤で張ったタイル — 施工の記録で下地と接着剤を確かめたうえで、各階1か所でタイルを引っ張ってくっつく強さを測る方法(引張接着試験)でもよい
  • 落下防止の措置付きのタイル — はがれても落ちないよう、ステンレスの線やレールなどで留めたもの。要件を満たせば、歩行者の安全を確保する対策をしているものとして扱える場合がある

PC板・有機系接着剤・落下防止の措置付きタイルの扱いは、国の技術的助言(令和3年・平成30年・令和7年)によるもので、要件は竣工時の図面や施工の記録で確かめます。竣工図書の保管場所を先に確かめておいてください。

夕暮れの中層マンションの外観

誰がやるか — 必要な資格

定期報告のための点検ができるのは、一級建築士・二級建築士、または国土交通大臣から資格者証の交付を受けた人(国の講習を修了した人など)です(建築基準法第12条・第12条の2)。建築士が報酬を得て行うには、建築士事務所の登録が要ると札幌市は案内しています。

打診と赤外線 — 方法の違いと向き不向き

  • テストハンマーによる打診 — 足場、ゴンドラ、高所作業車、ロープで下りる作業(ブランコ)などで壁に近づき、たたいた音で確かめる
  • 赤外線(ドローンを含む) — 浮いた部分と健全な部分で熱の伝わり方が違うことを使い、表面の温度の差を赤外線の装置で写して確かめる
  • 引張接着試験 — 有機系接着剤で張ったタイルに限る。試験機でタイルを引っ張り、くっつく強さを測る

国土交通省は令和4年1月18日に告示を改正し、ドローンによる赤外線のうち、打診と同等以上の精度があるものを使えることをはっきりさせました。精度の判断には、日本建築防災協会の委員会がまとめたガイドラインを参照するよう案内しています。

赤外線は足場が要らない一方で、天気、気温、風、日の当たり方、写す角度と距離に左右されます。ガイドラインでは、軒裏や建物の角などは一般に難しい場所とされ、本番の前に同じ場所で打診と赤外線の両方を行って見つけ方を確かめ、見つけにくい所は打診などで確かめることになっています。

外壁タイルの浮きの原因 — なぜ壁から離れるのか

浮きとは、タイル、モルタル、コンクリートのような違う材料どうしの接着面にできるすき間のことです。国土交通省が案内している赤外線のガイドラインは、乾いたり濡れたり、温まったり冷えたりをくり返すことで接着面に力がかかり、接着の弱いところに生じると説明しています。進むと、タイルが外へふくらむ「はらみ」になります。

国土交通省のマンション改修マニュアル(令和8年3月改訂)は、原因として、年月による劣化や施工不良でタイルのくっつく力が落ちること、鉄筋を覆うコンクリートの厚さ(かぶり)が足りず、鉄筋の錆が膨らむ力で押し出されることを挙げています。浮く場所も、コンクリートと下地のモルタルの間、下地のモルタルとタイルを張るモルタルの間、タイルそのもの、と層ごとに分かれ、どの層かで直し方が変わるとしています。

マンションのエントランスの集合ポスト

浮きのサインと、定期報告での判定

  • ひび割れ — タイルや目地に入ったひび。下のコンクリートのひびが表に出ていることもある
  • 白い汚れ(白華) — コンクリートの中の石灰分が水に溶けて流れ出し、表面で白く固まったもの
  • ふくらみ・欠け — タイルの面が外へはらんでいる、欠けたり落ちたりしている
  • 錆の汁 — ひびや目地から茶色い汁が出ている(中の鉄筋が錆びているおそれ)

定期報告の判定の基準は、国の告示で「外壁タイル等に剥落等があること又は著しい白華、ひび割れ、浮き等があること」とされています。浮きの割合(浮き率)が何パーセントを超えたら、という数字の基準は、告示には書かれていません。

浮きそのものは、たたいて初めて見つかることが多いものです。地上から上のようなサインが見えたら、定期報告の時期を待たずに資格を持つ人に見てもらってください。マンション改修マニュアルも、放っておくと、はがれ落ちによる人身事故や住戸への漏水の原因になるとしています。

北海道で気をつけること — 凍結と融解、工事と報告の時期

北海道では、ひび割れや目地から入った水が凍って膨らみ、融けてまた水を入れる凍結と融解のくり返しも傷みを進めます。タイルは裏側に水が回って浮き、落ちる危険につながります(『凍害とは?外壁・コンクリートの症状と対策 — 北海道の建物が傷む理由』)。北方建築総合研究所も、凍結と融解をくり返す試験でタイルのくっつく強さを確かめています。

国の公共建築改修工事標準仕様書では、外壁改修の工事は雨や雪にさらされないようにし、気温5℃以下のときは、暖めるなどの手当てをしない限り行わないことになっています。補修は雪のない時期に行う計画が基本です。

札幌市の定期報告は、共同住宅と飲食店などは6月1日から11月30日まで、それ以外は4月1日から9月30日までに出します。報告書は点検した日から3か月以内のものが有効なので、全面打診の時期は報告の期間から逆算して決めます。

浮きを見つけたあとの補修 — 注入・ピンニング・張り替え

  • アンカーピンニング部分エポキシ樹脂注入工法 — 浮いた部分に穴をあけて樹脂を入れ、ステンレスのピンでコンクリートに留める
  • アンカーピンニング全面注入工法 — ピンで留めたうえで、浮いたすき間全体に樹脂やポリマーセメントのスラリーを注入する
  • 注入口付きアンカーピンニング工法 — 注入口の付いたピンで、留めることと注入を同じ穴で行う
  • タイル固定工法 — タイルの真ん中に穴をあけてピンを打ち、樹脂でタイルそのものを留める。穴は化粧キャップなどでふさぐ
  • タイル部分張替え工法・張替え工法 — タイルをはがして張り直す。下地を残す部分張替えは、1か所あたり0.25㎡程度以下が目安

上は、国の公共建築改修工事標準仕様書(令和7年版)が、タイル張りの外壁の浮きを直す工法として挙げているものです。ピンは特に指定がなければ1㎡あたり16本(見上げる面や庇の先などは25本)で、施工後は全数を打診して確かめます。

どの工法を選ぶかは浮いている層で変わり、コンクリートそのものが傷んでいればその補修も要ります(マンション改修マニュアル)。ひびの直し方は『外壁のひび割れ(クラック)の原因と補修方法 — 放置してよい幅・危ない幅』で説明しています。

夜の駐輪場

全面打診と浮きの補修の費用 — 1㎡あたりの目安と、何で決まるか

  • 赤外線で外壁を写す方法(ドローンを使うものを含む) — 1㎡あたり75〜350円。札幌の1社と全国の3社が公開している価格(税別と税の記載なしが混在・2025年の表示と時期の書かれていないもの)
  • ロープで下りて壁をたたく全面打診(足場を組まない方法) — 1㎡あたり200〜600円。全国の5社が公開している価格(税の記載なし・2025年の表示と時期の書かれていないもの。北海道の会社は無し)
  • 浮きの補修:注入口付きアンカーピンニング(札幌市の令和8年度の設計単価) — 部分注入で1㎡あたり7,610〜13,500円、全面注入で11,200〜20,100円
  • 浮きの補修:アンカーピンニング(同じ単価表) — 部分エポキシ樹脂注入で1㎡あたり9,150〜14,200円、全面エポキシ樹脂注入で12,900〜21,000円

打診と赤外線の価格は、施工会社が公開している1㎡あたりの値の最小〜最大で、2026年10月に確かめたものです。赤外線の価格は、手の届く範囲の打診や目視、報告書まで含めたものが多く、面積が大きいほど1㎡あたりは安くなります。遠い地域では交通費が別になる会社もあります。ロープの全面打診は、報告書が別料金の会社があります。ゴンドラや足場を使う打診は、価格を出している会社が少なく、幅にできませんでした。

補修の単価は、札幌市が公共工事の費用を積算するために価格を調べて決めた「令和8年度 建築工事設計資材単価表」(2026年4月、財政局)の値で、材料と手間を含みます。足場や仮設、現場の管理費、会社の経費は含まず、税込か税抜かは書かれていません。幅のうち低いほうは壁の一般的な部分、高いほうは見上げる面や庇の先など、ピンを多く打つ「指定部分」の値です。

打診の費用は面積で見当がつきますが、補修の費用は、打診で浮きが何㎡見つかるかが分かるまで決まりません。費用が上下するのは、全面打診の範囲(歩行者に危害を加えるおそれのある面がどれだけあるか)、壁の高さと近づき方(足場、ゴンドラ、高所作業車、ロープのどれを使うか。足場がすでにあるか)、方法(打診だけか、赤外線と組み合わせるか)、補修の量(浮きの面積、ピンや注入の数、張り替えるタイルの枚数)です。

足場を組む工事と時期を合わせると、壁に近づく準備を一度で済ませられます。国土交通省の長期修繕計画作成ガイドラインでは、タイル張りの補修の周期は12〜15年が例として示され、全面打診の10年とはずれます。大規模修繕を3年以内に行うことが計画で確実なら、そのときに合わせて確かめる考え方もあります。進め方は『大規模修繕の流れと周期 — 何年ごとに、着工前に何を決めるか』で説明しています。

見積書では、打診する面とその面積、赤外線で見つけにくい所を打診で補うか、定期報告の書類の作成まで含むかを確かめてください。補修は、㎡で出す会社とピンの本数で出す会社があるので、数え方をそろえて、2社以上の見積りを比べるのが確かです。

管理組合・ビルの持ち主がやること

  • 対象かどうか確かめる — 用途・階数・床面積を自治体の案内と見比べる。札幌市なら都市局の建築安全推進課が窓口
  • 10年の起点を確かめる — 竣工日、外壁改修、前回の全面打診の日を書類で確かめる
  • 資格を持つ人に頼む — 全面打診が要るか、どの面が範囲か、どの方法で行うかを相談する
  • 結果を受けて動く — 浮きが見つかったら補修の計画を立てる。すぐに直せないなら、ネットなどで歩行者を守る
  • 控えを残す — 報告書の控えと受理証を保管し、次の報告と修繕の計画に使う

報告をするのは持ち主(持ち主と管理者が違う場合は管理者)です。分譲マンションでは、誰の名前で報告するか、費用をどこから出すかを管理組合で先に確かめておきます。

相談する前に確かめておくこと

  • 建物の用途、階数、延べ面積と、竣工した年
  • これまでの外壁改修と全面打診の時期、定期報告書の控え
  • 外壁の仕上げ(タイル・石・モルタル)と、竣工図や施工の記録があるか
  • 建物のまわりの道路・通路・広場の位置と、人の通り方
  • 地上から見えるひび割れ、白い汚れ、ふくらみ、欠けの写真

分かる範囲で構いません。合同会社LIT(札幌市)では、外壁のひび割れ・欠けの補修やシーリングの打ち替えなどの外壁補修を承っています。現地確認・お見積りは無料です。

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